OTC類似薬の一覧を介護職員に見せたら、ほとんど『いつもの薬』だった

OTC類似薬の保険給付が見直される。

2027年3月から、OTC医薬品と成分などが同じ一定の医療用医薬品について、通常の自己負担とは別に「特別の料金」が求められる仕組みが始まる予定だ。

対象となる薬を見ていたら、聞き覚えのある名前がいくつもあった。

そこで、知り合いの介護職員に一覧を見てもらった。

「マグミットあるじゃん」

酸化マグネシウム。便秘の薬である。

「ピコスルファートもある」

これも排便の調整に使われる。

「ヘパリン類似物質も。亜鉛華軟膏もあるじゃん」

さらに見ていく。

「プロペトあるし。これはもう、ほとんどの人が使ってる」

もちろん、施設や入居者によって処方内容は異なる。

ただ、特別養護老人ホームで働くその人にとって、そこに並んでいたのは「ドラッグストアでも買えるような薬」というより、毎日の仕事の中で見慣れた薬だった。

プロペトやヘパリン類似物質は、乾燥した皮膚を保護する。

亜鉛華軟膏も、高齢者のスキンケアでは珍しいものではないという。

リンデロンなどのステロイド外用薬も、必ずしもアトピー性皮膚炎のような診断がある人だけに使われるわけではない。高齢になると皮膚が乾燥しやすく、かゆみから掻き壊して炎症を起こすこともある。

マグミットやピコスルファートは、排便コントロールの一部として日常的に使われる。

こうして並べてみると、少し不思議なことに気づく。

これらは「病気を治す薬」というより、加齢や要介護状態によって維持しにくくなった身体を、日々安定させるために使われている薬でもある。


そもそも今回の制度には、それなりに理解できるところがある。

OTC医薬品で対応できる症状について、病院を受診して保険診療で同じような薬を処方してもらう人と、自分でドラッグストアへ行って購入する人がいる。

厚生労働省が示している制度の趣旨にも、「医療用医薬品の給付を受ける患者とOTC医薬品で対応している患者との公平性」や「現役世代の保険料負担の軽減」が挙げられている。

軽い症状なら自分で薬局へ行って対処する。

そうすることで、本当に医療が必要な人へ医療資源を集中できる。

セルフメディケーションという考え方そのものには、私もそれほど違和感はない。

医療現場が逼迫していることも、医療保険に無限のお金があるわけではないことも分かる。

だから単純に、

「薬代を上げるな」

と言いたいわけではない。

問題は、その先である。


たとえば特養で暮らしている人は、セルフメディケーションをする人なのだろうか。

自分で症状を判断し、ドラッグストアへ行き、薬を選び、自分で管理して使用する。

今回の制度を「病院でもらわず、薬局で買えるものは薬局で」という方向への誘導だと考えるなら、暗黙のうちにそうした人間像があるように思える。

しかし、要介護状態にある人では事情が違う。

医師が薬を処方し、看護職などが管理し、介護職員が排便状況や皮膚の状態を日々観察する。

プロペトひとつとっても、

「乾燥したから市販のワセリンを買って塗ろう」

という個人的なセルフケアとして使われているとは限らない。

それは、要介護状態にある人の生活を支えるケアの一部になっている。

つまり、

「OTCで代替できる薬」と、「セルフメディケーションで代替できる医療」は、同じではないのではないか。

という疑問が出てくる。


もちろん、この問題が制度を作る側にまったく認識されていないわけではない。

厚生労働省は、こどもやがん・難病患者などに加え、医師が年間を通じた症状の持続と治療の継続性を確認し、長期使用が医療上必要だと認める場合などを、別途負担の対象外としている。

検討会では、たとえば寝たきりによる活動量低下に伴う慢性便秘に対して、酸化マグネシウムを年間を通して処方するようなケースも具体例として挙げられている。

この例を見る限り、要介護高齢者の慢性的な処方がまったく想定されていないわけではない。

だからこそ、もう一歩踏み込めないだろうかと思う。

介護保険では、要介護状態そのものを保険事故として扱う。

とくに特養は、原則として要介護3以上の人が入所する施設である。

別の社会保険制度ですでに、

「この人は日常生活を自力だけで維持することが難しい状態にある」

と公的に認定している。

それなら、セルフメディケーションを前提とする医療保険制度を考える際にも、その状態をもう少し参照してよいのではないだろうか。

たとえば、要介護状態や特養・老健などへの入所を、医師が長期使用の必要性を判断する際の明確な配慮事項にする。

そんな設計も考えられるように思う。

要介護3以上なら何でも無料にしろ、という話ではない。

要介護2以下でも自分で薬を管理できない人はいるし、反対に要介護認定を受けながら在宅で暮らしている人もいる。

だから年齢や施設名だけで線を引けば、また別の不公平が生まれる。

ただ少なくとも、「セルフメディケーションできるか」という政策目的に照らして要介護状態を見る、という視点はあってもいい。


もう一つ気になるのは、負担の行き先である。

この制度には現役世代の保険料負担を軽くするという目的がある。

それもよく分かる。

ただ、介護の現場では、90代の親のキーパーソンが70代の子ども、ということも珍しくないという。

施設にいる本人の生活費や医療費を、本人の年金だけで完全に賄えているとも限らない。

保険で広く負担していた費用を本人負担へ移せば、それが結果として家族の財布から出ていくこともある。

すると、

「現役世代の負担を軽くする」

という政策が、別の場所では

「要介護者を支える家族へ負担を移す」

ことになる可能性もある。

もちろん、だからすべて保険で賄えばいいという話でもない。

限られた社会保障費をどこまで使うのかという問題からは逃げられない。

ただ、一つ一つの薬を

「市販品があるから」

という理由だけで見ていると、見えなくなるものがあるように思う。


最後に改めて、9月30日に厚生労働省が更新した制度の詳細を整理してみようと思う。

施行時期が2027年3月1日と初めて明記されたことも大きいが、ここからが興味深い。

長期使用については、少なくとも6か月程度の使用実績などを踏まえ、年間を通じた使用が医学的に必要だと医師が判断する場合には、別途負担の対象外にできるという具体的な整理が示されたのである。

つまり、慢性的・継続的な使用への配慮はかなり具体化している。
これは重要な前進だと思う。

それでも私が少し引っかかるのは、「要介護状態」や「施設入所」という状態そのものは、依然として制度上の配慮要件として位置づけられているわけではないことである。


プロペト。

酸化マグネシウム。

ピコスルファート。

ヘパリン類似物質。

亜鉛華軟膏。

薬の名前だけを並べれば、OTCで似たものが存在する薬なのかもしれない。

でも特養の中へ持っていくと、それらは排泄や皮膚の状態を整えることを通じて、高齢者の生活を毎日維持するための道具になる。

医療費を抑えることも必要だ。

セルフメディケーションを進めることにも意味はある。

そのうえで、

要介護状態になった人が生活を続けるために必要な医療的支援を、医療保険と介護保険と本人負担のどこで支えるのか。

今回のOTC類似薬の見直しは、そんな少し大きな問題にもつながっているように思う。

「薬局で買える薬だから」というところから始めるだけでは、たぶん見落とすものがある。

少なくとも、介護施設の日常を知る人に一覧を見せてみると、

そこに並んでいたのは、

「自分で買ってください」と言いたくなる薬ばかりではなかった。


【参考】

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